冬 住まう

用を足して廊下に出て無造作に息を大きく吸い込んだ折、

空気が無臭であることに気づく。

少し前はよその家のにおいがしたものだ。

まる二年間、実家を出て暮らしていて。

その実家にふらっと戻ってきてからもう一年経つ。

 

自分が都心の方へ引っ越していったのと入れ替わりに、

友人夫婦が実家から五分ぐらいのところに引っ越してきた。

かつて出て行きたくて出て行ったこの土地に、

見知った友人が好き好んで住まおうとするのはどうも不思議だ。

横浜の、東京を中心としたドーナツ化現象の一部になっているこの街で

別に混みいった人間関係がご近所に存在するわけでもないのだけれど、

ただ、どこに行くにも半端に遠いこの場所が好きになれない。

 

その友人夫婦もどうやら近々出て行く。吉祥寺の方へ引っ越すのだとか。

今日は出て行く記念のパーティなんだそうで、おじゃましてくる。

そういう季節なのだし、自分もまた引っ越したいという気持ちになっている。

2人やら3人で住めば経済的には楽だろう、けれど自堕落な自分はきっと

一緒に住む人間によくないだろうから、出来るなら1人で暮らしたい。

と、言いつつも、まぁ2人でもいいかな?と思うこともある。

2人、3人でもいいから引っ越したいという友人は何人かいるのだ。

まぁ、どちらにしろまた出ていきたいという点では同じ。

 

去年一年は何度か旅行をしたものだけれど、元々自分はあまり

生まれ育った土地を積極的に離れたりはしてきていない。

東京の病院で産声を上げ、ベッドタウンに移り住んで育ってきた。

上京するという選択肢も生まれつきない。

本当のところ、アメリカの片田舎にいるような、

産まれてこのかた毎日みているあの山の向こう側をしらない老炭鉱夫と

大した違いはないのかもしれないな、と近年良く思う。